はじめに
前回の記事で、但馬牛の美味しさを支える要素の一つとして「徹底した流通管理システム」をご紹介しました。今回は、その仕組みをさらに掘り下げ、個体識別番号の活用方法や肉質保持に重要な「育種価」について解説します。
世界的に名高い神戸牛と、その血統の源である但馬牛は、美味しさだけでなく、厳格なブランド管理体制によって守られてきました。この仕組みにより、消費者は安心して「本物の味」を楽しむことができます。
本記事のポイント:
- ブランド管理の仕組み
- 流通管理システムと個体識別番号
- 商標・地理的表示(GI)・DNA鑑定によるブランド保護
- 肉質保持に不可欠な「育種価」と雌雄牛の管理方法
※本内容は、「但馬牛アンバサダー育成講習会 第4回 講義『但馬牛・神戸ビーフのブランド理解と個体識別情報の見方』」(兵庫県農林水産部畜産課 肉用牛振興班)をもとにまとめたものです。
2. ブランド管理の仕組み
2-1. 神戸肉流通推進協議会の役割
但馬牛・神戸牛のブランドを守るために設立されたのが、神戸肉流通推進協議会です。
その目的は「但馬牛や神戸ビーフの生産から消費に至る関係団体を組織化し、ブランドの強化を図ることにより、消費者の食生活の向上とブランド牛の振興に資すること」(規約第2条より抜粋)です。
要約すると、神戸肉流通推進協議会の役割は次の3つに整理できます。
- 但馬牛・神戸ビーフ等の定義を統一し明確にすること
- 生産者や販売店を指定し、ブランドの枠組みを守ること
- 但馬牛・神戸牛のブランド全体を一元的に管理すること
2-2. 但馬牛・神戸牛の流通の仕組み
具体的に、但馬牛・神戸牛は以下のような厳格なプロセスを経て管理されています。
- 指定繁殖農家で生まれた子牛を、県内の家畜市場に出荷
- 指定肥育農家で一定期間肥育
- 指定食肉センターでと畜・解体し、格付けを実施
- 証明書が発行され、指定の食肉卸売市場を通して流通
- 最終的に、指定登録店(飲食店・精肉店など)でのみ販売
神戸牛は、神戸肉流通推進協議会に加入している指定登録店でしか取り扱うことができません。
2-3. 但馬牛・神戸牛の商標と知的財産の保護
但馬牛・神戸牛は、それぞれ図形商標として登録されています。このマークを使うには、神戸肉流通推進協議会に申請を行い、許諾を受ける必要があります。安易にブランド名を名乗らせないことで、市場の信頼性を守っています。
また、「但馬牛・但馬ビーフ」「神戸ビーフ・神戸肉・神戸牛・KOBE BEEF」は、地理的表示(GI)保護制度にも登録されています。これは、地域独自の自然や歴史に育まれた品質や評価を持つ産品を、国が知的財産として保護する制度です。
つまり「但馬牛・神戸牛」は、日本の食文化を象徴する地域ブランドとして、国レベルでも強固に保護されているのです。
2-4. 但馬牛・神戸牛のDNA鑑定検証システム
近年は、さらに一歩進んだブランド保護策としてDNA鑑定検証システムが導入されています。
- 指定食肉センターで採取された肉片をDNA管理番号とともに保管
- 兵庫県但馬牛証明書や神戸肉之証にもDNA番号を記載
- 流通後も照合・追跡が可能
さらに2023年8月からは、協議会が指定登録店をランダムに巡回し、実際にDNA鑑定を実施。消費者が安心して購入できるよう、その結果も透明性高く公開されています。
3. 個体識別情報と血統証明
3-1. 個体識別番号について
日本国内で流通するすべての牛肉には、10桁の個体識別番号(通称「牛のマイナンバー」)が割り当てられています。この番号によって、以下の情報を正確に追跡することができます。
- 生まれた農家
- 育った場所
- 出荷やと畜の履歴
消費者自身も、インターネット上で番号を入力すれば、購入した牛肉の出自を調べることが可能です。「どこの誰が育てた牛なのか」を自分で確認できることは、品質に対する大きな信頼性につながっています。
【参考】個体識別情報検索サービス
独立行政法人家畜改良センターの公式サイトです。10桁の番号を入力すると、牛の基本情報を確認できます。
https://www.id.nlbc.go.jp/top.html?pc3-2. 個体識別番号の但馬牛・神戸牛ならではの活用法
ここまでの仕組みは日本国内すべての牛に共通していますが、但馬牛・神戸牛はさらに一歩進んだ独自の管理体制を持っています。それが「但馬牛血統証明システム」です。
このシステムを使えば、以下のような極めて詳細な情報まで確認できます。
- 牛の名前
- 生年月日・性別
- 三代にわたる血統図
- 生産者・肥育者
- 出荷された食肉市場
- と畜・解体された年月日
- 但馬牛・神戸牛に認定されているかどうか
つまり但馬牛・神戸牛は、「その牛がどんな血統で、どんな環境で育ち、どのように流通したのか」を世界で最も明確にたどれる牛肉だと言えます。この徹底した透明性が、ブランド価値を支える大きな柱となっています。
【参考】但馬牛血統証明システム(個体識別番号検索)
こちらのサイトに10桁の番号を入力すると、三代祖の血統図を含めたさらに詳しい牛の情報が確認できます。
http://www.tajimagyu-trace.com/trace_back.php4. 育種価を用いた雌雄牛の管理
4-1. 育種価という「通知表」
但馬牛の優れた品質を維持するためのもうひとつの特徴が、「育種価(いくしゅか)」と呼ばれる評価制度です。育種価とは、雌雄牛が持つ遺伝的な能力を数値で表したもので、「但馬牛の通知表」とも言われます。
枝肉成績や血統情報などを分析し、肥育農家の成績や性別、出荷月齢といった環境要因の影響を取り除いて算出されるため、純粋に親から子へ伝わる「遺伝的能力」が見える化されます。評価される主な項目は以下の通りです。
育種価が高いほど、これらの形質に優れているとされ、和牛改良を進める上での極めて重要な指標として活用されています。
4-2. 雌雄牛「トップ12頭」が守るブランド価値
兵庫県では、但馬牛の雄牛はすべて県が一括して管理しています。飼育枠は最大72頭。その頂点に立つのが、厳しい選抜を突破した「基幹種雄牛(きかんしゅゆうぎゅう)12頭」です。
兵庫県産の但馬牛(神戸ビーフを含む)は、基本的にこの12頭のいずれかの血を引き継いでおり、これがブランドの均質な品質を支えています。育成は以下のように段階的に進みます。
- 候補牛:毎年16頭、生後半年ほどで県に買い取られる
- 待機牛:2歳で7頭に選抜され、テスト交配に用いられる
- 基幹種雄牛:待機牛の産子の枝肉成績などを基に、年1回の改良委員会で厳選
トップ12に入れなかった候補牛や、役割を終えた基幹種雄牛はと畜されるという、非常に厳しい仕組みの中でブランドが維持されています。このように、育種価によって客観的かつ数値的に「牛肉の美味しさ」を管理することが、安定したブランド価値を支えているのです。
まとめ
本記事では、但馬牛・神戸牛のブランド価値を支える仕組みを整理してご紹介しました。
- 神戸肉流通推進協議会による厳格なブランド管理
- 流通管理システムと個体識別番号による高い透明性
- 商標・GI登録・DNA鑑定といった多層的なブランド保護
- 育種価を活用した長期的な品質改良の取り組み
これら多層的な取り組みによって、「安心」と「美味しさ」が一体となった唯一無二のブランド価値が守られています。お客さまが安心して「本物の但馬牛・神戸牛」を味わえるのは、生産から流通まで続く徹底した管理体制と、見えない努力の積み重ねがあるからこそです。