経産牛とは?
「経産牛(けいさんぎゅう)」という言葉を聞いたことがありますか?あまり馴染みのない言葉かもしれませんが、実はお肉の世界では“知る人ぞ知る”おいしさとコスパを兼ね備えた牛なのです。今回はそんな経産牛の魅力を、「一体どんな牛なのか?」「味はどういった特徴があるの?硬いの?」といった疑問にお答えしながら、わかりやすく解説します!
そもそも「経産牛」って何?
── 普通の牛と何が違うの?
「経産牛」とは、繁殖用の牛として子牛を産み、その役目を終えた後にお肉として出荷される"お母さん牛"のことです。つまり、子牛を出産した経験のある雌牛です。
対して、出産経験のない牛は「未経産牛」と呼ばれ、霜降り肉として流通する多くはこの未経産牛。特にブランド和牛では、未経産で肥育された牛が主流となっています。
経産牛は出産経験により肉質が硬くなる傾向にあり、ミンチ材やペットフードなどに利用されることが多く、以前はあまり市場には出回らない牛でした。そんな経産牛が近年注目され始めた理由はどこにあるのでしょうか。
「経産牛」が注目され始めた理由
──農家さんの再肥育技術の向上
もともとは肉質が硬く市場には出回らない経産牛でしたが、近年では繁殖の役目を終えた経産牛の「再肥育」という取り組みが農家さんの間で広がっています。
「再肥育」とは、出産・搾乳などの役目を終えた雌牛を半年から1年間程しっかりと飼養管理し、十分な栄養を与えて食肉として育て上げることです。
特に但馬牛など血統の良い牛の場合、再肥育を経ることで、長期肥育の牛ならではの「赤身の旨味」と「サシの甘み」の両方を兼ね備えた肉に仕上がり、当店のお取引先の料理人さんからも高評価を受けています。
経産牛の「再肥育」は、実は簡単なものではありません。再肥育にあたり、それまでとは違う種類の餌を与えるので、牛が体調を崩してしまうことなどもあり、農家さんの経験や知見がないとうまくいきません。
そういった農家さんたちの取り組みのお陰で、「経産牛は適切に再肥育をすることによりおいしいお肉になる」という新しい見方が広まりつつあるのです。
──世の中の「赤身肉ブーム」
経産牛は、「"赤身"の濃厚な旨み」が特徴なので、近年の赤身ブームも経産牛が評価されはじめた理由の一つといわれています。
当店の店頭でも、若い世代を中心に赤身肉を好む方が増えてきていると実感します。「A5ランク和牛」「とろけるような霜降り肉」などよりも、「美味しい赤身肉」に価値を感じるという方に、経産牛は非常に高い評価をいただいています。
──「SDGs」の考えの広がり
流通せずに廃棄されることも多い経産牛を食肉用として再肥育し出荷することは、近年話題になっている「SDGs」という観点からも注目されています。
命を最後までおいしくいただくということも、持続可能な食肉生産を目指す上で重要な取り組みの一つです。
「経産牛(但馬牛血統)」と「未経産牛(A5和牛)」を食べ比べ!
経産牛について検索された方の中には、「硬くないのか」「風味はどうなのか」「においや味に癖はないのか」などのネガティブなイメージをお持ちの方もおられるのではないでしょうか。そこで、「但馬牛(うし)アンバサダー」である私、平山牛舗の4代目跡取り平山が、当店で扱う経産牛を実食し検証してみます。
「経産牛」に興味はあるけど、実際のところ味はどうなの?」「贈り物に相応しいお肉なの?」といった疑問を持たれている方のご参考になれば幸いです。
(但馬牛(うし)アンバサダー育成講習会において行われた味覚テストにおいて、全問正解したという実績を活かし正直に食レポしていきたいと思います!!)
経産牛のにおいについて
まず、焼く前の香りを確認してみました。
これまでも経産牛を食べてきた中で「臭い」などと感じたことは一度もありませんでしたが、改めてじっくりと、目を閉じ嗅覚に集中しにおいを嗅いでみます。
経産牛、未経産牛とも、臭みといったものは全くなく、生のお肉の香りがほのかに感じられる程度でした。
焼いた後についても、台所が焼肉さんのような香りに包まれて換気扇フル稼働でしたが、「臭い」ということはなく、むしろ食欲をそそられるばかりでした。
※あくまで個人の感想であり、牛の個体差もありますのでご容赦ください
経産牛の食感・味について
・経産牛 赤身肉
じっくりと味わうために、塩だけでシンプルにいただきます。
やはり経産牛ならではの噛み応えがあります。とろけるような食感の和牛をお求めの方には向かないお肉だと感じましたが、歯ごたえが良く個人的には好ましい食感でした。味に関しては、牛肉ならではの旨みが凝縮されていることを改めて実感しました。A5ランク黒毛和牛の赤身と交互に食べ比べてみると明らかに味が濃く、その違いに驚きました。
・経産牛 霜降り肉
次に経産牛の霜降り肉をいただきました。「経産牛は霜降りが少ない」と思いきや、しっかりとサシが入っており、未経産牛に見劣りしないレベルでした。
先に食べた赤身肉と比べるとかなり柔らかく、しっかりとお肉本来の味や甘みもあり、万人受けする食感と味だと感じました。A5ランク黒毛和牛の霜降り肉の方が、若干甘みが強い傾向にあるように感じましたが、お肉自体の風味といった面では経産牛にやや軍配があがるような気がします。「経産牛は脂がしつこくない」とよくいわれますが、確かにとても食べやすく、胃もたれ感なく食べられました。
今回、「経産牛赤身」「経産牛霜降り」「A5黒毛和牛赤身」「A5黒毛和牛霜降り」を実食しましたが、個人的には「経産牛霜降り」が一番おいしかったです。
経産牛のこの味の濃さや旨み、またしっかりとサシが入る肉質は、「但馬牛血統」由来のものなのか…。当店で取り扱う経産牛は基本的には但馬牛血統の牛ですが、今後、但馬牛血統の経産牛とそうではない経産牛の食べ比べも行い、検証してみたいです。
まとめ:経産牛は「通」が選ぶ一頭
経産牛は、「硬い」「脂が少ない」「においが気になる」といったイメージが先行しがちですが、実際には“赤身の旨味”という大きな魅力を秘めたお肉です。また、血統や再肥育の方法によっては、経産牛でもしっかりとサシの美味しさをご堪能いただけます。
再肥育された経産牛は、旨味と柔らかさのバランスも良く、コストパフォーマンスにも優れています。一度食べてみると、未経産牛にはない奥深い味わいにきっと驚くはず。
お取引させていただいている牛飼いさんたちや、昨年亡くなった私の祖父(平山牛舗2代目)も、「結局『ばっこお』が一番おいしい」とよく話していました。※「ばっこお」…経産牛のこと
ぜひ一度、当店おすすめの「但馬経産牛」を食べてみてください。知れば知るほど、噛めば噛むほど好きになる、そんな“通好み”のお肉です。